「AIで何かやれ」から始まった企画は、なぜ通らないのか ― AI企画は一行目で決まる

中小企業の相談でいちばん多い切り出しは、これです。

「AIで、うちも何かできないですかね」

悪気はまったくないし、むしろ前向きな一言です。ただ、この一行目のまま企画書に進むと、ほぼ確実にどこかで止まります。決裁で止まるか、導入した後に誰も使わなくなるか、そのどちらかです。

うちも今、自社の採用にAIを組み込んでいます。評価テストを用意して、その回答をAIに読ませて分析し、応募書類と突き合わせる。文字にすると「採用のAI化」ですが、この企画は「AIで採用を効率化したい」から始まっていません。今日はその一行目の話をします。

AI企画は一行目で決まる ― 技術起点 vs 課題起点
AI企画の成否は、実装ではなく一行目で決まる

うちの一行目は「書類と面接では、人を見誤る」だった

出発点にあったのは、効率の悩みではなく、精度の悩みでした。

採用の判断材料って、よく考えると相当に薄いんです。応募書類は自己申告で、書きたいことしか書いていない。面接は準備ができるし、こちらも短時間で聞ける範囲しか聞けない。それなのに、その材料で「一緒に働くかどうか」を決めている。

中小企業だと、この見誤りが重くのしかかります。人数が少ないぶん、一人の採用が組織の空気を変えてしまう。教育に投下した時間も、立ち上がりの遅れも、既存メンバーの負荷も、全部そこに乗ります。

だから最初に置いた一行目は「書類と面接だけでは、人物像を見誤る」でした。効率ではなく精度。減らしたいのは、工数より見誤りの確率のほうでした。

うちの一行目は「見誤り」だった
効率ではなく精度の課題として立てたから、設計が変わった

この順番で始めたから、設計が「評価テストを自分たちで作る」ところに向かいました。自己申告ではない材料を、自分たちで生み出さないといけない。そこで初めて「その回答をどう読むか」という話になって、AIが出てきます。AIは後半にしか出てこないんです。

もし逆から始めていたら、まったく違うものができていたと思います。「採用をAIで効率化」から入っていたら、たぶん応募書類をAIに要約させて終わっていた。読む時間は減ったでしょうが、見誤りは一ミリも減らない。同じツールを使っても、一行目が違うと着地する場所が変わります。

通らない企画に共通する、書き出しの4パターン

支援先の企画書を見せてもらうときに、まず一行目だけを見ます。だいたいここで結果が見えます。

1. ツール名が主語になっている

「ChatGPTを導入して、業務を効率化する」。よくあります。でもこれ、主語がツールなので、何が良くなるのかを誰も説明できない。決裁の場で「で、何が変わるの?」と聞かれて、答えに詰まる。

2. 課題が「工数」だけ

工数削減は分かりやすいぶん、効果が小さく出ます。月に何時間浮きます、を金額に直すと、たいてい大した額になりません。投資対効果の勝負に持ち込むと、ほぼ負ける。しかも「その浮いた時間で何をするのか」を答えられないと、削減した意味そのものを問われます。

3. 効果が「効率化」で止まっている

誰の、何が、どう変わるのか。ここが書けていない企画は、導入後に評価もできません。効果を測る先が無いので、続けるべきかどうかも判断できない。

4. そもそも誰も困っていない

いちばん静かに失敗するのがこれです。担当者は「やったほうがいい」と思っている。でも現場に、それで困っている人がいない。困っている人がいない仕組みは、導入した翌月から使われなくなります。

4つとも共通しているのは、業務課題が主語になっていないということです。

通らない企画の書き出し4パターン
4パターンの共通点は、業務課題が主語になっていないこと

課題起点で始めると、AIを使わない設計が出てくる

課題起点で書き始めると、面白い現象が起きます。AI以外にやることが山ほど出てくるんです。

うちの採用でいえば、評価テストを設計する、何を見たいのか評価軸を言葉にする、AIに材料を出させて人が決めるという線をどこに引くか決める。全部AIの外側の仕事です。ここを詰めないとAIに何を読ませればいいのかも決まらない。

逆に言うと、技術起点で始めた企画はここを飛ばします。飛ばしても最初は動いてしまうから厄介で、動いた結果が「思ったほど何も変わらない」になる。企画の本体は、AIより手前にあります。

もうひとつ言うと、課題起点で書くとやらない判断もできるようになります。困りごとを書き出した結果、「これはAIじゃなくて、そもそも申請フォームを直せば終わる」となることがけっこうある。それも成果です。AIを使わない結論に到達できる企画書のほうが、私は信用します。

演習:一行目を書き換える

社内でやるなら、この形が手っ取り早いです。20分あれば回ります。

手順

  1. 手元のAI企画(または「やりたいと思っていること」)の一行目を、そのまま書き出す
  2. ツール名・サービス名をすべて消す。消した状態で意味が残らなければ、それは企画ではなくツールの感想
  3. 「困っている人」を主語にして書き直す。誰が、どの場面で、何に詰まっているか
  4. その人が今、何を見誤っている/取りこぼしているかを一文で書く
  5. 最後に、そこへAIをどう当てるかを書く。AIが最後に出てくれば正しい順番

評価の観点

  • 主語がツールではなく業務課題になっているか
  • 困る人が実在の誰かとして特定できているか(「全社員」は特定できていない)
  • うまくいかなかったとき、誰が困り続けるのかを言えるか
  • AIを使わない部分の作業が、ちゃんと出てきているか

4つ目が出てこない企画は、まだ課題が浅いんだと思います。もう一段掘ってから書き直したほうが、結果的に早い。

一行目を書き換える ― 20分の演習
AIが最後に出てくる企画書が、正しい順番

まとめ

  • AI企画の成否は、実装ではなくテーマ設定の一行目でだいたい決まる
  • 通らない一行目は、ツールが主語/課題が工数だけ/効果が効率化だけ/誰も困っていない
  • うちの採用AI化の一行目は「書類と面接だけでは人物像を見誤る」。効率ではなく精度の課題として立てたから、評価テストを自作する設計になった
  • 課題起点で始めると、AIを使わない部分の設計が必ず出てくる。そこが企画の本体

次回は、この企画を進める過程でいちばん厄介だったテーマを書きます。AIの捏造(ハルシネーション)は、派手な嘘の顔をしていないという話です。実務では「いくつ間違いがあるか」を誰も教えてくれない。その中でどこを疑えばいいのか、うちなりの見当のつけ方を整理します。

投稿者プロフィール

頭領CEO 土開千昭

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