社内業務改善のAI企画、実物で全部見せます ― うちの採用を4ステップでなぞる

ここまでの4回で、考え方の話をしてきました。企画は最初の一文で決まるという話。AIの捏造は自然に溶け込んでいるという話。だから制限ではなく、スタンスと仕組みを設計するのだという話。そして、その根底にDXという土台がいるという話。

今回からは実物です。うちが今やっている採用のAI化を、社内業務改善の企画の型(現状分析 → 課題設定 → 企画骨子 → 企画詳細化)の4ステップに沿って、最初から最後まで並べます。きれいに整えた成功事例ではなく、順番に何を考えて何を作ったかの記録として読んでください。

先に全体像を一枚で示すと、こうなります。

社内業務改善の4ステップと成果物
各ステップの成果物を先に決める
ステップ問い成果物
1. 現状分析今、何がどう回っているか業務の流れと、判断が入る箇所の一覧
2. 課題設定本当に解くべきことは何か解くべき問題を書いた一文
3. 企画骨子誰の何がどう変わるか変化を一枚で説明できる骨子
4. 企画詳細化何を使い、誰が担い、どこで線を引くかデータ・体制・AIと人の線引き

各ステップで「成果物が何か」を決めておくのがポイントです。成果物が決まっていないステップは、いつまでも終わらないので。

ステップ1:現状分析 ― 「欠員が出てから慌てて募集」という構造

まず、うちの採用がどう回っていたかです。多くの中小企業と同じで、欠員が出たときだけ募集する方式でした。

この方式の問題は、募集のタイミングを人が抜けるタイミングに支配されることです。急いでいるから、応募が少なくても「この中から選ぶしかない」となる。つまり構造的に、妥協で選ぶことが組み込まれている。しかも判断材料は応募書類と面接だけ。書類は自己申告で、面接は準備ができる。第1回で書いたとおり、見誤る条件が揃っています。

妥協が構造に組み込まれている
妥協は人のせいではなく、構造の問題

現状分析でやることは、この流れを書き出して、人の判断が入る箇所に印をつけることです。うちの場合、「募集を開始する判断」「書類で絞る判断」「面接で見極める判断」の3箇所。そして3つとも、判断の根拠が薄いか、時間の圧力で歪む構造になっていました。

成果物は立派な資料でなくていい。業務の流れと、判断箇所の一覧。A4一枚で足ります。

ステップ2:課題設定 ― 解くべきことを一文にする

現状分析から出てくる困りごとは、たくさんあります。募集が遅い、応募が少ない、書類を読む時間がない、面接の精度が低い。全部をAIで解決、とやると企画は必ず失敗します。

うちが選んだ一文はこれです。

「急いで妥協で選ぶ構造をやめ、常に候補者がいる状態で、見誤りを減らして選べるようにする」

前半が構造の話(常時採用への転換)、後半が精度の話(見誤りの低減)。逆に、捨てた課題もあります。書類を読む時間の削減は、課題にしませんでした。工数はここでは本丸ではない。この判断の理由は次回(効果の測り方)で詳しく書きます。

課題設定の成果物は、この一文だけです。ただしこの一文に、やること・やらないことの判断が全部詰まっています。

ステップ3:企画骨子 ― 誰の何がどう変わるか

骨子は「何を作るか」ではなく「誰の何が変わるか」から書きます。うちの場合はこうです。

  • 会社:欠員が出てから慌てる → 常時採用・常時募集。常に応募が入り、常にスクリーニングされている状態に変わる
  • 選考する側:書類と面接という薄い材料で決める → 評価テストの回答という濃い材料が加わり、AIの分析と書類との突き合わせで、人物像を立体的に見てから会える
  • 応募者:面接一発の印象勝負 → 実務に近い形で力を見せる機会がある

これを実装に落とすと、3つの部品になります。

実装は3つの部品。AIは最後だけ
企画の本体は、AIより手前にある

順番が大事です。AIが登場するのは3番目だけ。1と2はAIの外側の設計で、ここを飛ばして3だけ入れても何も起きません。第1回で書いた「企画の本体はAIより手前にある」の実例です。

ちなみに1の求人サイトは、採用マーケティングの先行事例を参考に、構成を決めてから1日で立ち上げました。以前なら制作会社に発注して数週間の話です。作ること自体はもう障壁ではない。この「作る力の変化」は、シリーズ後半(ダッシュボード内製の回)で正面から書きます。

ステップ4:企画詳細化 ― データ・体制・そして線引き

詳細化で決めるのは3つです。

データ:AIに何を読ませるか。うちの場合は、評価テストの回答(自由記述)と応募書類(自己申告)。この2つを突き合わせると、書いてあることと、やっていることのズレが見えます。実際にあった例では、書類に「AIの出力は自分で振り返り、責任を持って対応している」と書いた応募者が、テストではAIのハルシネーションをそのままコピペして提出してきました。書類だけなら通っていたかもしれない。突き合わせだからこそ見えた矛盾です。

体制:誰が回すか。応募が増えると、テストの案内・採点・連絡がボトルネックになります。実際うちも、稼働後に応募が急に増えて(直近では8月10日からの2週間ほどで32件、月100件のペース)、処理が詰まりました。ここは自動化ワークフローに落とし込み、定期的に業務を切り出して一般化することで解消し続けています。運用は作って終わりではなく、詰まりを見つけて流す繰り返しです。

線引き:どこまでAIに任せるか。うちの線は、前回書いたとおりです。

AIは材料を出すが、合否を決めない
線が決まっているから、AI分析を思い切り使える

AIは材料を出すが、合否を決めない。人が判断した理由を残す。応募者にとって不利益な推測はしない。この線引きが決まっているから、AI分析を思い切り使えます。線が曖昧なまま使うと、いつか「AIが落とした」という説明のできない状態になる。

4ステップを通して見えること

並べてみると、気づくことがあります。AIの話をしたのはステップ4の一部だけだということです。

現状分析は業務の観察、課題設定は捨てる判断、骨子は変化の設計。AIビジネス企画といいながら、大半は昔ながらの業務改善の仕事です。逆に言えば、この型を踏んでいれば、AIの部分は差し替えが効きます。モデルが進化しても、ツールが変わっても、企画は壊れない。型がAIを使う側に立たせてくれる。

演習:自社の業務でこの4ステップを埋める

研修でやるなら、ワークシート1枚です。

手順

  1. 自社の業務をひとつ選ぶ(「見誤りが怖い仕事」から選ぶのがコツ。理由は次回)
  2. 現状分析:業務の流れを書き、人の判断が入る箇所に印をつける
  3. 課題設定:解くべきことを一文で書く。同時に「今回は解かないこと」を2つ書く
  4. 企画骨子:「誰の何がどう変わるか」を3者以上(会社・担当者・相手側)について書く
  5. 詳細化:AIに読ませるデータ/回す体制/AIと人の線引き、を埋める

評価の観点

  • 一文に「やらないこと」の判断が含まれているか
  • 骨子の主語が自分以外にも及んでいるか
  • AIが登場するのが後半だけになっているか(前半から登場していたら、第1回に戻る)
  • 線引きが「AIは材料、決めるのは人」の形で書けているか

まとめ

  • 社内業務改善のAI企画は 現状分析 → 課題設定 → 企画骨子 → 詳細化 の4ステップ。各ステップの成果物を先に決める
  • うちの採用では、現状分析で「欠員時だけ募集→妥協で選ぶ」構造を特定し、課題を「常時採用への転換+見誤りの低減」の一文にした
  • 骨子は「誰の何が変わるか」。実装は求人サイト・評価テスト・AI分析の3部品で、AIが出てくるのは最後だけ
  • 詳細化の要は線引き。AIは材料を出すが、合否を決めない
  • 型を踏めば、AIが進化しても企画は壊れない

これまでの記事:第1回 企画は最初の一文で決まる/第2回 AIの捏造は派手な嘘の顔をしていない/第3回 「AIは禁止」の前にやることがある/第4回 AIビジネス企画はDXの続きにある

次回は、この企画で最初に悩んだ話(効果をどう測るか)を書きます。「工数削減」を課題にしなかった理由と、工数の表には絶対に出てこない、いちばん大きかった効果の話です。

投稿者プロフィール

頭領CEO 土開千昭

Consultation

記事の内容を、自社の課題に置き換えて整理しませんか。

現状整理から、必要な取り組みと進め方を一緒に考えます。

相談してみる