脱PPAPをきっかけに、パスワード付きZIPをやめてクラウドストレージの共有リンクに切り替えた。よくある流れだと思う。ところが半年もすると、リンクが増えすぎて誰が何を見られる状態なのか分からなくなっている、という声を聞くことが多い。
これは選んだツールが悪いわけではない。「相手にファイルを渡す」という行為と「相手とファイルを見続ける」という行為を、同じ機能でまとめて処理しようとしたことに無理があるのだと思う。
この記事では、「送信」と「共有」という2つの状態を分けて考える、というだけの話をする。難しい理屈ではなく、ツールを選ぶ前に一度立ち止まって整理しておくと後で楽になる、という実務の話だ。
「とりあえず共有リンクで」が招く3つのこと
見積書を1件送るだけなのに、クラウドストレージのフォルダに入れて共有リンクを発行する。手続きとしては簡単だし、パスワードもZIPも要らない。ただ、この「渡すだけのはずの1回のやりとり」に共有という仕組みを使うと、後からじわじわ効いてくる問題が3つある。
- 渡したら終わりのファイルが、渡した後も残り続ける。案件が終わっても、リンクもファイルもフォルダに残ったままになる。誰かが片付けない限り消えない。
- 権限管理が誰にも分からなくなる。案件ごとにフォルダを作り、その都度アクセス権を設定していくと、どのフォルダに誰の権限が残っているのか、担当者本人以外は把握できなくなる。担当者が異動・退職すると、そのまま誰も見なくなる。
- リンクが生き続ける。共有リンクは「無効化」を忘れると期限なく生きている。転送されて、想定していなかった相手が開けてしまう可能性もゼロではない。
どれも「共有」という仕組みそのものの欠陥ではない。1回渡すだけのやりとりに、継続して見せ続けるための仕組みを使ったことのミスマッチだ。
「送信」と「共有」は、そもそも別の状態
ここで一度、言葉の意味を整理しておきたい。
送信とは、ファイルを相手に渡して、そこで役目が終わる行為のことだと考える。見積書、契約書、請求書、納品物。渡した後は、送り手の手元からも相手の手元からも、いずれ消えてよい。むしろ消えてくれた方が、後で管理する手間が減る。
共有とは、同じ場所を複数人で見続ける行為のことだ。進行中のプロジェクトの資料フォルダ、チームで更新し続ける議事録、常に最新版を全員が参照すべきマニュアル。こちらは消えては困る。むしろ「残り続けて、常に更新されている」状態こそが正しい。
この2つは、目的が正反対だ。送信は「消えてほしい」、共有は「残ってほしい」。同じ機能で両方をまかなおうとすると、送信のつもりで作ったリンクが共有のように残り続けたり、共有のつもりで使っていたフォルダが誰にも更新されないまま送信の名残として放置されたりする。冒頭で挙げた3つの問題は、突き詰めるとこのねじれから生まれている。
自社の用途はどちらか、判断する3つの観点
実際の業務で「これは送信か、共有か」を判断するには、次の3つを自分に問いかけてみるとよい。
- 相手との関係はどれくらい続くか。1回限りのやりとりなら送信寄り。継続して取引・協業する相手で、今後もファイルをやりとりし続けるなら共有寄りになりやすい。
- そのファイルは更新されるか。渡した時点で完成している「確定版」なら送信。今後も内容が変わっていき、常に最新版を見てほしいものなら共有。
- 渡した後、消えてほしいか、残ってほしいか。これが一番シンプルで、かつ一番大事な問いだと思う。案件が終わったらアクセスできなくなっていてほしいなら送信。案件が終わっても参照し続けてほしいなら共有。
この3つに答えが出れば、どちらの仕組みを使うべきかはだいたい決まる。逆に言うと、この判断をせずに「とりあえずクラウドストレージ」で済ませてしまうと、送信のはずのやりとりまで共有の仕組みに乗ってしまい、冒頭の問題が起きる。
送信と共有を混ぜて使うときの線引き
もちろん、実務では送信と共有の両方を使う場面が普通にある。混ぜること自体は問題ではない。問題は、線引きがあいまいなまま同じツール・同じフォルダで両方を運用してしまうことだ。運用ルールとして、最低限次の3点は決めておきたい。
- 1回渡して終わるファイルは、共有フォルダに置かない。送信専用の手段を別に用意する。
- 送信したファイルとリンクには、必ず有効期限を設定する。手動での無効化を「忘れない」に頼らない。
- 共有フォルダは、案件が終わったタイミングで棚卸しをする担当と頻度を決めておく。「誰かがそのうち整理する」は、たいてい誰もやらない。
この線引きは、脱PPAPを機にツールを選び直す企業がつまずきやすいところでもある。PPAPそのものの問題や代替手段の考え方については、別の記事で詳しく整理しているので、あわせて読んでもらえるとツール選びの見落としが減ると思う。
まとめ
共有リンクが便利なのは間違いない。ただ、それは「共有」という用途に対して便利なのであって、「送信」という用途に無理やり当てはめると、後から管理の負債になって返ってくる。ツールを選ぶ前に、目の前のやりとりが送信なのか共有なのかを、まず自分の言葉で判断してみてほしい。
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